音楽に対しての褒め言葉って知ってますか?それは”SOMETHING”と言う言葉に集約されます。
では、小説・文学ではどうでしょうか?
吉田修一の”悪人”この本には”SOMETHING”があります。
420ページにも及ぶ長編小説だ。殺人を犯してしまった清水祐一は悪人なのか、馬込光代を愛する事で、愛する喜びを知り、そして愛される喜びも知った清水祐一。而して愛に報いるために更に悪人になろうとする。これは本当の悪人なのか。
実行犯では無いが、犯罪に結びつく大きなきっかけを作った松尾圭吾は悪人ではないのか。実の母でもないのに、どんな事があっても最後まで祐一を心の底から守ろうと決意する祐一の実の祖母である清水房江。実の母親でありながら、最後には清水祐一との関係さえも否定する、依子は悪人ではないのか?
同時系列で進行する様々な場面、複雑に絡みあう糸は気持ちが良いほどスルリと解けてゆく。
良い小説とは読み終わった後に残る時間の流れであり、そこから生まれる読者の新たな自分だけの物語である。
最後に一番心に残った言葉をあげたい。
「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人間がおらん人間は、なんでもできると思い込む。自分には失うものがなかっち、それで自分がつようなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした眼で眺めとる。そうじゃなかとよ。本当はそれじゃ駄目とよ。」
大切なものを失う気持ちもわかる、大切なものを見つけられない気持もわかる、意に反して大切なものを見失う気持ちもわかる・・・。
お互いの違いを認め合える事こそが大切な気がする。
この本を読む事を勧めてくれたTujita先生に感謝